大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)143号 判決 1990年2月27日

東京都杉並区上井草一丁目二八番一六号

原告

有限会社 柿木荘

右代表者代表取締役

中塚和朗

右訴訟代理人弁護士

藤川成郎

東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号

被告

荻窪税務署長

權田進

右訴訟代理人弁護士

伴義聖

右指定代理人

石黒邦夫

竹田準一

長岡忠昭

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和六〇年五月二二日付けでした原告の昭和六〇年二月分の配当に対する源泉徴収に係る所得税の額を六〇万円とする納税の告知及び不納付加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告に対し、昭和六〇年五月二二日付けで、昭和五九年二月一八日開催の原告の昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の決算に関する定時社員総会(以下「本件定時総会」という。)で承認された利益処分案における社員配当金三〇〇万円(以下「本件配当金」という。)に係る源泉所得税額六〇万円についての納税の告知(以下「本件告知処分」という。)及び右源泉所得税額に係る不納付加算税額六万円の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

2  これに対し、原告は、昭和六〇年八月二日異議申立てをしたが、同年一〇月二九日付けの決定により申立てを棄却され、さらに同年一一月二六日審査請求をしたが、昭和六一年六月一九日付け裁決(裁決書は同年七月一八日送達)により請求を棄却された。

3  しかし、本件告知処分は違法であり、本件告知処分を前提とする本件賦課決定も違法であるから、原告は本件告知処分及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認め、3の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告は、請求原因1のとおり昭和五九年二月一八日に開催された本件定時総会において本件配当金の支払が承認されたにもかかわらず、その後一年を経過した昭和六〇年二月一九日に至つてもその支払いをしなかつた。

2  所得税法一八一条二項は、配当について支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、配当金に係る源泉所得税をその一年を経過した日の属する月の翌月一〇日までに国に納付すべきこととしており、右規定によれば、原告は昭和六〇年二月一九日に本件配当金の支払があつたものとして、本件配当金に係る源泉所得税を法定納期限である同年三月一一日(同年三月一〇日が日曜日に当たるたあ国税通則法一〇条二項により同年三月一一日が法定納期限となる。)までに納付すべきであつたところ、原告は右源泉所得税を納付しなかつた。

3  そこで、被告は、本件配当金に係る源泉所得税を原告から徴収することとし、国税通則法三六条一項二号に基づき昭和六〇年五月二二日付けで原告に対し本件告知処分を行うとともに、同法六七条一項に基づき、源泉所得税額六〇万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じた額の不納付加算税を賦課する本件賦課決定を行つたものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認ある。

2  同2のうち、本件配当金について所得税法一八一条二項により原告に源泉所得税の納付義務があることは争い。その余は認める。

3  同3のうち、本件告知処分及び本件賦課決定の存在は認め、その適法性は争う。

五  原告の反論

1  原告は、原告の代表取締役で昭和五八年五月二〇日に死亡した中塚ヒサから、同人が所有していた東京都杉並区上井草一丁目一二八番一、畑(現況宅地)、三四三平方メートル(実面積三四〇・〇五平方メートル)及び隣接する同所同番八、宅地、七四・二六平方メートル(以下併せて「本件土地」という。)の遺贈(以下「本件遺贈」という。)を受け、その受贈益を三九二八万〇八四八円と計算して本件事業年度の収益に計上し、当期利益を一九四六万〇〇二九円と算出した上で、本件定期総会において本件配当金の支払の承認を得た。

2  ところが、本件事業年度後、本件配当金の支払をしないでいるうちに、中塚ヒサの相続人二名からの本件遺贈に対する遺留分減殺請求についての価額弁償として原告が同人らに計三〇〇〇万円を支払う旨の合意が昭和五九年六月二二日までに成立したため、原告の本件遺贈による受贈益は三〇〇〇万円減少し、配当可能利益は消滅した。

3  そこで原告は、昭和五九年六月三〇日に開催した臨時社員総会(以下「本件臨時総会」という。)において、本件定時総会における本件配当金の支払の承認を取り消すことを社員の全員一致で決議した。

4  有限会社の社員の配当金支払請求権は、権利者の同意があり、かつ第三者が右請求権について新たな権利関係を有するに至る前においては、社員総会の決議により消減させることに何ら妨げはないと解すべきところ、本件では社員四名全員の同意があり、また、本件臨時総会までに本件配当金の支払請求権について譲渡、差押え等の新たな法律関係は生じていないのであるから、本件臨時総会の決議により原告の本件配当金支払義務は消滅し、源泉徴収義務も消滅したというべきである。

六  原告の反論に対する被告の認否

1  原告の反論1の事実は認める。

2  同2のうち、価額弁償の合意は認め、その余は争う。

原告の本件事業年度における本件遺贈による受贈益の金額には五七〇三万六一二八円の計上漏れがあり、正当な当期利益金額は七六四九万六一五七円であるから、配当可能利益が本件配当金を超えることは明らかであり、原告の主張は前提を欠くものである。

3  同3の事実は知らない。

4  同4の主張は争う。

有限会社の社員の配当金支払請求権は、利益配当案の定時総会における承認により確定し、以後は社員としての地位から独立した権利となつて会社の社団的制約は及ばなくなるのであるから、いつたん発生した配当金請求権をその後の社員総会の決議によつて剥奪したり、変更したりすることはできない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実並びに被告の主張1の事実及び同2のうち原告が昭和六〇年三月一一日までに本件配当金に係る源泉所得税を納付しなかつたことは当事者間に争いがない。

二  所得税法一八一条二項は、配当について支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、配当金に係る源泉所得税をその一年を経過した日の属する月の翌月一〇日までに国に納付すべきこととしているところ、右一の事実によれば、原告は昭和六〇年二月一九日に本件配当金の支払があつたものとして本件配当金に係る源泉所得税を法定納期限である同年三月一一日(同年三月一〇日が日曜日に当たるため国税通則法一〇条二項により同年三月一一日が法定納期限となる。)までに納付すべきであつたのにこれを納付しなかつたものであるから、国税通則法三六条一項二号及び同法六七条一項に基づいてされた本件告知処分及び本件賦課決定はいずれも適法である。

三  これに対し原告は、その後本件配当金の支払をしないでいるうちに本件臨時総会において本件定時総会での本件配当金の支払の承認を取り消したので、原告の本件配当金の支払義務は消滅し、源泉徴収義務も消滅したと主張し、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一号証によれば、原告は、本件臨時総会において主張のような決議をしたことが認められる。

しかし、有限会社の社員の配当金支払請求権は、利益配当案の定時総会における承認により確定し、以後は社員としての地位から独立した権利となつて会社の社団的制約は及ばなくなり、いつたん発生した配当金請求権を社員総会の決議によつて剥奪したり、変更したりすることはできないと解すべきであるから、本件臨時総会の決議は本件配当金の支払請求権に影響を及ぼすものではなく、原告の主張は失当である。

なお、原告は、本件遺贈に対する遺留分減殺請求に対して原告が計三〇〇〇万円の価額弁償をする旨の合意ができたことにより配当可能利益が消滅したと主張しているが、右の三〇〇〇万円の価額弁償の合意ができたのは本件事業年度後のことであるというのであるから、本件事業年度後の損金の問題にすぎず、本件事業年度の配当可能利益には影響がないというべきである。

四  よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 石原直樹 裁判官 佐藤道明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例